CD/音源制作の仕上げ工程となるマスタリング。その意味や重要性、実際に行われている作業工程を紹介してみようと思います。
プロの作業手順なども例にあげますが、なるべく分かりやすくシンプルに説明したいと思います。
マスタリングとは何か?
本来はCDプレス工程で原盤(スタンパー)を制作する工程を意味します。しかし現在マスタリングという言葉を使う時はスタジオ側もアーティスト側も『プリマスタリング』の意味でマスタリングと言っているケースがほとんどです。
【プリマスタリング】
ミックスダウンを終えた各曲を1つの作品としてバラつきなく聴けるように、『音量』『音質』『フェードイン・アウト』等を調整した後、曲間の調整や必要となるコード(※)の入力を行い、マスターCD-RかDDPファイルでマスターを制作する事です。
※「コード」 CDの場合マスターに入力されるコードには、PQコード(曲の開始/終了時間をきめるもの)、ISRC(各曲の国際標準コード)、POSコード(バーコード)等があります。
マスタリングの重要性
●バラバラの音質や音圧を揃えて1つの世界観にそろえる
アルバムによっては収録曲ごとにMIXエンジニアが変わるケースも多いですし、たとえ同じエンジニアでもミックスダウンは各々の曲の世界観を作るために調整している為、質感や音量感にバラつきが必ず出てきます。
それをトータルの視点から音質/音量を整えてやることでCD全体を通して聴きやすく、世界感が統一された作品に仕上げることができます。
●ミックスダウンで満足いかなかった点を改善する
ボーカルは引っ込めずにギターのやかましいところを抑えたい、キックを抑えつつベースラインを強調したい等、、、ミックスダウンを終え2mix(※)になってしまったら実現できなさそうな要望でも、優れたマスタリングエンジニアなら大体の要望は対応できます。
ただし、、、こういったパートごとの調整は本来はミックスダウンに立ち戻って改善をするのが本筋ですので、可能であればミックスダウンの工程に戻って再調整しましょう。
ただ
- アーティスト自身のミックスダウンで技術的に改善できない。
- プロにミックスダウンを依頼したが予算の問題で希望レベルまで持っていけなかった。
というような不可抗力なケースもあります。そういった場合では『マスタリング工程でアーティストのイメージに近づける作業』は必要かつ重要になってきます。
※「2mix」 マルチ録音されてそれぞれ音調整が可能だった複数のパートを、ミックスダウンでバランスを取り作品としてステレオにまとめた状態。ステレオでL/Rの2チャンネルだけなので2mixという。
●音の世界観や印象を崩さずに最終フォーマットに落としこむ
これは簡単にいうと『高解像度のレート(例えば96kH24bit)でレコーディング、ミックスダウンされた音源の世界観や印象を崩さずに、販売されるメディアのフォーマットで音を仕上げる』という作業になります。
このポイントは機材面でもノウハウ的にもハイレベルなものが要求される難しい工程になります。
現在オンラインを含め利用できるマスタリングサービスは価格帯/内容から質まで非常に幅が広くなっています。ただこの工程は良質なマスターレコーダーやアウトボード、電源環境、ケーブル、、、そして何よりエンジニアのノウハウが非常に重要になってきます。
この工程が高いレベルで行われているマスタリングはプロ基準を満たしていると判断する1つの材料と考えても良いと思います。
マスタリングの基本的な手順
ここではマスタリングの手順を知ってもらう為にstudio dubreelでおこなっているマスタリングの手順を一例として解説してみます。基本的な流れは共通していると思いますがエンジニアによって各々にノウハウがあるので、あくまで一例として参考にしてみてください。
1.素材となる2mixの読み込み
まずミックスダウンを終えた2mix素材をDAWソフト(私はProToolsを使用)に読み込みます。
マスタリング素材は録音/ミックスダウン時のビットレート・サンプリングレートで書き出してもらい、特別な理由がない限りマスターエフェクトやディザ/ノーマライズ等も外して書き出します。これはマスタリング素材として、よりピュアな状態にしておくためです。
2.音の調整
シングルであれば楽曲の個性をさらに引き出しつつ、様々な再生環境でバランスが崩れない音に。さらにアルバムであれば全体の世界観や曲の流れを踏まえ、音を調整していきます。
私はデジタルが得意とする工程はプラグインで、アナログが得意とする工程はアウトボードで音を調整していきます。
マルチバンドコンプ、リニアフェイズEQ、位相修正、クリップ(歪)修正やノイズカット等。
アナログで行う作業
コンプ(プラグインでは出せないコンプ感や倍音の付加)、カスタムアンプによる音色の変化、オープンリールをマスターレコーダーにする場合テープコンプ等。
3.アナログ出し
ProTools→アウトボード→マスターレコーダーといった接続でアナログ出ししてマスターレコーダーに録音します。私は通常、DSDレコーダーをマスターレコーダーとして使っています。
4.販売フォーマットへの落とし込み
納品メディアにあわせたビットレート/サンプリングレートに設定したDAWに、DSDレコーダー→ProToolsで録音します。例えばCDの場合は44.1kH/16bitに設定します。
また別途、映像用のオーディオマスター(48kH/16bitが多い)やハイレゾ配信用マスター(96kH/24bit〜)などが必要になるケースでも、音の世界観やイメージを崩さずに各々のフォーマットにあわせたマスターが制作可能になります。
5.最終調整/マスター制作
曲のフェードイン・アウトや必要があれば音質/音量の最終微調整を微調整を行い、マスターオーディオファイルとして書き出します。その後、曲間やISRC/POSコード等を入力しマスターを制作し完了となります。
デジタル時代の新しいマスタリングSTYLE
これから紹介する2つは、デジタル環境が整ってきた今だからこそ進化してきた新しいマスタリングSTYLEです。
●オンラインマスタリング
ネット環境を利用してスタジオにマスタリング素材を納品しマスタリングを行う方法のことです。マスタリングの手法自体が新しいわけではなく、昔と比べ大容量の高速ファイル転送が可能になったから普及してきたSTYLEです。
【メリット】
- 海外のマスタリングスタジオでも旅費がかからない。
- オンラインでやりとりするので時間効率が良い。
【デメリット】
- 音をリアルタイムに聴きながら判断や要望を伝えることができない。
- 現場にいることで学べる事、エンジニアからの話、といった+αはない。
●ステムマスタリング
これは通常のマスタリングとは違い『1つの曲を複数のステレオファイルで出力し、それらを素材にマスタリングする手法』です。
例えば3ピースバンド(Vo,Gu,bass,Drum)だった場合、『Kick』『kick以外のdrums』『Gu』『bass』『Vo』の様にエンジニアが判断して複数のステレオファイルでマスタリング素材を納品します。
複数のパートのオーディオファイルがあるので一見ミックスダウンと同様にも受け取れますが、基本的に複数のステムファイルはそのまま並べて再生すれば曲として完成されたバランスになっているところがミックスダウン工程との大きな違いです。
なので複数のファイルがあっても再生すれば2mix扱いになるため、基本的なマスタリングの流れは、先程あげたオーソドックスな手順と同様に行います。
ですが、例えば高域を持ちあげたい場合にドラムのシンバル類はHIがもっと欲しいがギターの高域はそのままでいきたいといった様なケースになった場合、ステムマスタリングは各々のパートをいじれるので非常に効率よく短時間でイメージに近い世界感に仕上げる事が可能なのです。
ステムマスタリングはこれからまだまだ進化していく手法だと思います。
まとめ
長い間おつかれさまでした。
なるべく簡潔にしつつも詳しく分かるように書いたつもりですが、ノウハウや手順を深く語り始めれば1冊の本でも収まらないくらいマスタリングは奥の深い作業になります。
ですのでDAWやソフトがいくら進化しても、高いレベルの音を追求しているマスタリングエンジニアは今後もアーティストの理想の音をつくる職人としてより必要不可欠な存在になっていくと思います。
マスタリングは1曲からでも受けてくれますし、一度自分の楽曲でしっかりしたレベルのマスタリングを受けてはいかがでしょう?
可能であればぜひ立ち会いがおすすめです。とても勉強になりますし、音への視野や表現力が広がると思いますよ。
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