最近ではクラブミュージック以外のジャンルでもレコード/Vinyl (バイナル)でプレスするアーティストが増えていますね。
当スタジオでもレコードプレスのプレマスタリングの依頼が年々増えており、新旧のメディアで音源がリリースされる現状を嬉しく思っています。
ただ意外と知られていないのか、レコードとCD/配信で同じマスターを使ってプレスするレーベルやアーティストも多いようです。
CDと同じマスターを使ったり同じ曲数/曲順だと音が悪くなるケースがあるのを知っていますか?
せっかく素晴らしいメディアで作品を作るなら知っておいた方が良いので、レコードプレスを考えているアーティストやレーベルはぜひ読んでみてください!
CDとレコードの1番大きな違いは?
●CDはマスタリング後の音質がプレス工程で変わる事は、ほぼないと言ってよい。
●レコードではマスタリング工程、プレス工程(カッティング)、この2点で音質に変化が起こる。
つまり分かりやすく言えば、CDはマスタリングの音質が最終的な作品になるのに対して、レコードはマスタリングした音質が最終ではなく、その後のプレス工程(カッティング)でも音圧や音質が変化するという事です。
CD/配信「マスタリングスタジオで聴いた音質/音圧 = リスナーに届く音」
レコード 「マスタリングスタジオで聴いた音質/音圧 ≠ リスナーに届く音」
ですので1番の理想はマスタリングもカッティングも同じエンジニアに作業してもらい、アーティスト/レーベル立会いで行って原盤となるラッカー盤をつくってもらう事です。
ただそういったスタイルはコストがかかりますし海外プレスだった場合、立会いも難しいです。そういった場合は、レコードプレス用のプリマスタリングをしてもらい、カッティングはプレス工場でテストカットのオプションを付け、カッティングも一度確認するのがベストだと思います。
レコード用のプリマスタリング
上に書きましたようにレコードプレスではプリマスタリングのあとに、レコードの原盤となるラッカー盤をつくる工程、カッティングがあります。
このカッティング工程で最終的な音圧や音質が決まります。仕上がりにはカッティングエンジニアの技術も大きく関わってくるのですが、カッティングで使う音素材となるプリマスタリング後のマスターの状態も非常に重要です。
腕のよいカッティングエンジニアでもカッティングを考慮したプリマスター音源でないと実力を発揮できないのです。
レコードプレス用のマスタリングならではの注意点をあげてみたいと思います。
※書かれている数値に関してはマスタリングエンジニアによっても異なりますので、あくまで目安に。
【音圧】
●ヘッドマージンは1〜2dBはあけ、音圧を入れすぎない(RMS-14〜10)
【低域の逆相】
●低域(80〜200Hz以下)の逆相の確認
【超低域の量】
●超低域を入れすぎない(30Hz〜50Hz)
【高域のピーク】
●高域のピーク(ボーカルの歯擦音やシンバル等)をできるだけ抑える
【曲順】
●曲の内容を考えて曲順も配慮する。音圧や勢いのある曲は前半に
●曲の長さと音質の関係を知る。音圧や低域を強くしたい場合、曲が短い方がベスト
それでは各項目を順に詳しく説明したいと思います。
【音圧】
CDや配信において最終の音圧はプリマスタリングで決定しますので、ヘッドマージンは0.2~0.1dB程度あけ、アーティストが希望する音圧に仕上げます。
しかしリミッターでキチキチに音圧を詰めた音素材はレコードのカッティングには向かず、逆にパワーがない仕上がりになる事もあります。
プレス会社にもよると思いますが、大体RMS-14〜10程度にするとレンジに余裕があるかと思います。ただクラブミュージックやロックなどリミッターの演出がマッチするジャンルもありますので、事前にプレス会社に最適な値を聞いておくとよりベストですね。
【低域の逆相】
レコードは特性上、低域に逆相の音が多いと歪みや針飛びの原因になったりします。
マスタリングでは低域の逆相をチェックして問題があれば調整します。私の場合は80〜200Hz辺りをチェックし、音源のステレオ感に影響しない周波数以下はモノラル方向に調整します。
打ち込みの場合、低域パートにコーラスをかけてステレオ化したりしているのであれば、周波数をわけてレイヤーして対応したり、男らしく(笑)低域パートはモノラル化するのもクラブミュージックなどは良い案だと思います。
【超低域の量】
低域になればなるほど、溝の幅が増えマージンをあける必要が出てきますので収録時間等、犠牲になる点が出ます。
ただジャンルによっては超低域も重要になるので、音の迫力や聴こえ方が変わらない範囲で入れすぎないようにマルチバンドコンプやEQで調整します。
【高域のピーク】
超低域と同様に高域のピークも歪みや音飛びの原因になるので、強い場合はディエッサーなどで調整します。
声やシンバルに高域のピークが出やすいのでレコーディングやMIXの際にレコードが完成メディアと伝えておけば、配慮して対応してもらえるかと思います。
【曲順】
レコードはメディアの性質上、曲順、曲数/曲の長さ、によっても音質が左右されます。
収録時間は少ない方が音圧も高く、また音質も良いレコードになります。LP(12インチ45回転)などは片面5〜12分以内であれば高音質な作品になるんではないでしょうか?音圧や十分な低域が必要なクラブミュージックは片面これくらいのサイズのものも多いかと思います。
また外周と内周では同じ時間あたりの情報量が変わります。外周の方が音圧も高く高音質になってきます。これはメディアの性質上さけられないので曲順で対処するのが昔からの王道ですね。
例えば、一番外周である1曲目に派手めだったりパンチにある曲を持ってきて、内周になるにしたがって静かめな曲にする、、、等。
テストプレスは必須オプション
ここまで読んできてくれた方はわかると思いますが、カッティングでも音が変わるので、プレス時はテストプレスのオプションはつけた方が良いです。
立会でカッティングしてもらう場合は必要ないですが、立会でないカッティングの場合のテストプレスは私の中では外せない必須事項です!
テストプレスで仕上がりの確認しないというのは、オンラインでマスタリングをしてもらい音を確認しないままCDプレスをすることと同じくらいリスキーな事だと経験上思います。それで後悔するケースもよくあるパターンです、、、。
納品時にプレス会社に音に関する要望も出せますが、プレス時には針飛び等のエラー防止のため、マージンをみて音圧は低めに設定されてしまう事も多いです。
そういった事も考えると予算は増えますが、テストプレスして音圧や音質を確認し、問題があればさらに要望を出しミーティングした方がイメージに近い仕上がりに持っていけると思います。
作品の企画段階で考慮しておくこと
まずプリマスタリングの項目で説明したようなポイントは、アレンジや録音、MIXの段階でも考慮していると良いです。
だれでも一番簡単に取り組め効果的なのは【収録する曲数/曲の長さ、曲順】をレコードという媒体にあわせ決める事です。作品のターゲット/目的/ジャンルを考え、音質と曲数のバランスを設定するのが良いかと思います。
他にはトラックメイカーなどであれば、超低域の量や低域の逆相、高域のピークなどはアレンジ/打ち込みの段階から処理しておくとベストですね。バンドなどであれば、レコーディングやミックスでエンジニアにアナログプレスする旨を伝え、相談すると対応してくれるのではないかと思います。
上級者になってくればバンド系の作品でもアナログ向けなアレンジや曲作りを取り込んで、より上を目指してアレコレするのもレコード媒体ならではのクリエイトで楽しめるんではないでしょうか?
まとめ
おつかれさまでした!
レコード媒体ならではのマスタリング、そして注意点をなるべく分かりやすく書いてみましたが、いかがでしたか?
「なんだか大変だな〜」と思う人もいれば、「やっぱりレコード楽しそう」と思う人もいると思います。
私は圧倒的に後者です(笑)!!!
デジタルと比べてレコードならではの不安定さや変化、、、こういったアナログな面が音楽にはあっているというか、作品により深みをあたえて昇華してくれてるんじゃないかとレコードを聴くと感じます。
アナログ好きとしてもエンジニアとしても、この記事が良きレコード作りのお役にたてれば嬉しいです。
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